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黄昏睡蓮

猟奇系、グロ系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。毎日更新を目標にしています。

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お嬢様は『剥かれる』のがお好き

 まるで桃の皮を剥くように、『お嬢様』の腕から皮膚が剥がれた。
「おお……これは……!」
 思わず感動して呟いてしまう。まるで長い手袋を脱いだだけのように、『お嬢様』の腕の皮が丸ごと剥けてしまった。
 皮を剥かれ、肉が露出するのはとんでもない激痛なのだろう。額に汗を浮かべながらも、『お嬢様』はにこやかに笑っていた。
「ふ、ふふ……すごいでしょう? こんなに綺麗に皮が剥けるなんて」
「ええ……この『人皮剥がし液』はすごい効果ですな……これだけ綺麗に皮が剥けるのであれば、様々な調理に使えそうです」
「調理の仕方を考えるのはお任せいたします……ところで、続きをしていただいてもよいでしょうか?」
 腕を少し動かすだけでも痛いのだろう。必死に同じ姿勢のまま動かないようにしている『お嬢様』は健気で、愛おしかった。

 たとえ、食用のコピー体であっても、『お嬢様』は敬愛すべきお嬢様なのである。

 無意味に食材の苦痛を長引かせるのは、料理人も望むところではない。
「そうですな。次の課程に取りかかりましょう。では次の新薬を……」
 そういって私は注射器を手に取り、それを筋肉がむき出しになった『お嬢様』の右腕に刺す。皮膚が剥がれたことで血管の位置がよくわかるようになり、注射は素人の私でも容易に刺すことができた。
 効果が出るまでの少しの間、私は『お嬢様』と会話する。
「それにしても色々な新薬が開発できるものですね……」
「ふふふ。『私』のデータがずいぶん役に立っているみたいで何よりです。私のこれはあくまでも趣味ですが、それが技術の発展に繋がるなら、それに超したことはないですから」
 ですが、と『お嬢様』は憂いの籠もった溜息を吐く。
「そろそろ老化を抑制する薬か、若返りの薬が開発されないものでしょうか……食肉のピークが過ぎてしまいます」
「コピー体の設定で年齢を下げることはできるのでは?」
「もちろんそれは可能ですけど、コピーの過程に直接手を加えるのは肉質にあまり良くないんです……普通に食べる分にはわからないでしょうけど、食通の方たちにいただかれたらすぐにわかってしまうでしょうね。私でもわかりますから」
「ああ、そういえばこの間、幼体のミルトア様をいただきましたからね」
 お嬢様のご友人を何度か調理したことのある私にも、その微妙な肉質の違いはわかった。
「元のご本人と面識のある方であれば、あれはあれで中々面白い趣向だとは思いますが。……そろそろいいのではないでしょうか?」
「そうですね」
 私は『お嬢様』の腕を取り、そして、力を込めてその腕を『折った』。

お嬢様は『剥かれる』のがお好き 2

「……!」
 腕が取れた瞬間、『お嬢様』が感じた衝撃はすさまじいものだったのだろう。一瞬腰を浮かせるほどに身体を震わせていた。
 私は視界の端にそれを捉えつつ、目の前のお嬢様の腕の方に意識を奪われてしまう。
「これは……すごい状態ですね……」
「……ふ、ふふ……薬の効果が切れれば、元に戻るから……早めの調理をお願いしますね」
 荒い呼吸をしながら、『お嬢様』がそう声をかけてくる。私は軽く頷いた。
 取れた『お嬢様』の腕は、まるで石膏像か何かのように、その性質を大きく変化させていた。薬はいわゆる硬化薬というもので、人間の身体をまるで石のように固めてしまう。その状態だと身体は非常に脆くなっており、文字通り『折る』ように破壊することができる。
 薬の効果は三十分ほどで、それが過ぎれば元の肉体に戻るということだから、手早く処理をしなければならない。
 私は『お嬢様』の腕をトレイの上で解体していく。いまの間に骨と肉を分けてしまうのだ。肉は骨と分離しているため、指先で肉の部分を崩すように外していくと、白い骨が残る。それはスープの出汁を取るために一端脇のツボに避けておいた。
「……しかしこの方法ですと、肉の形は崩れてしまいますから、ミンチにするのが良さそうですね」
 硬化している間にハンマーでくだいて細かくしておけば、ミンチにする手間も省けるかもしれない。私は早速木槌を持ってきて、骨と分けた『お嬢様』の肉をどんどん細かく砕いていった。その間、片腕を半ばから失った『お嬢様』はご自分の身体がどんどん食料にしか見えなくなっていくのを恍惚とした表情で眺めている。
 お嬢様にとって、食材になるということはこの上ない喜びなのだからそれも当然か。
「さっきの皮……使えませんか?」
 その『お嬢様』がふと思いついたように呟いた。確かに使えそうである。
「皮に細かくした肉を詰めて焼けば、ソーセージのようになるかもしれませんね。直接焼くのと違って骨はありませんし、肉も噛み切りやすく、食人の入門食としていいかもしれません」
 食人愛好家の方々は人肉を直接喰らっても問題ない程度に、歯や顎、内臓に至るまで強くなっているが、それでもやはり人肉というものは食べにくい食材だ。
 お嬢様のように食べられるために細胞レベルで調整されている方の肉でさえ、羊や馬と比べてもなお食べにくい。
 そのため、初めて人肉を食べるという方はその食べづらさに辟易してしまうことが多いのだ。その点、この調理法ならほとんど他の動物の肉と比べても遜色ない食べやすさになると思われた。
「色々試してみましょう。それではそろそろ……」
「ええ、お願いします」
 コピー体の生存時間が長ければ長いほど肉質が落ちていく。
 素早く処理を進める必要があった。私は『お嬢様』の全身の処理を進めるべく、作業員に連絡して準備を進める。
 

お嬢様は『剥かれる』のがお好き 3

 まずお嬢様の全身が浸かる水槽が準備される。そこにはなみなみと『人皮剥がし液』が注がれており、普通の人間にとっては拷問よりもなお酷い結果をもたらすものだった。
「お嬢様、失礼いたします」
 作業員の一人が『お嬢様』のほどよく長い髪をまとめ、水泳のキャップのようなもので外れないように固定する。さらにその上から頭をすっぽり覆うラバーマスクが被せられた。これによって『人皮剥がし液』が顔にかからないようにするのだ。
 本当は全身の皮を丸ごと剥ぎたいところだが、それはさすがに難しいし、何より『お嬢様』自身が自分の姿を見られなくなってしまう。
 ラバーマスクは目の部分が透明なレンズになっていて、鼻の部分に最低限の呼吸穴がある以外はくまなく頭部を覆っている。レンズ越しに見える『お嬢様』の目は、これから起きることへの期待感に光っていた。
 作業員が最後に『お嬢様』の首のベルトを呼吸を阻害しないギリギリまできつく締め、準備は完了。『お嬢様』の準備を行っている間に、私は全身を防護服に包んでいた。そうでなければ私の『人皮剥がし液』の影響を受けてしまうからだ。
「それではお嬢様、水槽の中へ」
 苦しそうに息をする『お嬢様』が頷き、自ら水槽の縁を跨いで液の中に身体を沈めて行く。首までどっぷり液に浸かるところを見ていると、まるで入浴しているかのような光景だが、その液体の効果を考えれば全身を激痛が襲っていることは想像に難くない。
 暴れ出さない辺り、さすがはお嬢様といったところか。
 だがそのままではいくらお嬢様といえども、痛みのあまり身体が勝手に暴れ出すかもしれない。
 私は素早く『お嬢様』の傍に近づき、その首筋に一本の針を突きたてた。
 途端、脱力して液体の中に沈みそうになるお嬢様を、作業員のひとりに支えてもらう。いま私が突きたてた針は、『お嬢様』の身体を動かそうとする神経の動きを止め、生き人形にしてしまう急所を突いていた。
 本来は逃げようと暴れる食材に対して行う処置で、お嬢様にはあまり必要としない技術なのだが、今回に関しては意に反して身体が暴れてしまうと、せっかく綺麗に剥がれるはずの皮が傷ついてしまう可能性がある。
「ウ……ウゥ……」
 ラバーマスクの下から、かすかに『お嬢様』のうめき声が聞こえてくる。身体が動かないため大きな声が上げられず、呻くことしかできないのだ。
「失礼いたします」
 私は愛用の包丁を手にし、それの切っ先を素早く『お嬢様』の首を一周させる。皮に切り込みを入れるだけの処置のため、血管は可能な限り傷つけない。切りつけたところから、剥がし液が『お嬢様』の身体に浸透していく。
 血が『人皮剥がし液』の中にじわりと滲んだ。

お嬢様は『剥かれる』のがお好き 4

 剥がし液が浸透していくのを少しだけ待ち、今度は背骨に従って背中に切り込みを入れていく。
 蛇の脱皮のように丸ごと皮が剥ければいいのだが、人の形でそれは難しいため、多少の妥協は必要なのだ。
 着ぐるみを脱がすように、『お嬢様』の皮を剥いでいく。その際、どうしても抜き身の肉に触ってしまうことになり、身体を動かせないながらも、『お嬢様』が身体を震わせているのが伝わって来た。一枚皮がめくれたことにより、筋肉が痙攣しているのがよくわかる。
 人は一枚皮を剥がせば皆同じ肉塊……とはいうが、お嬢様に限ってはそれは当てはまらないように思う。無論、使用人のひいき目もあるが。
 筋肉の付き方に無駄がない。ほどよく引き締め、ほどよく贅肉をつけたお嬢様の身体は、一般的に言う均整の取れたモデル体型とはまた少し違うバランスの取れ方だ。安い人肉用のコピー体のように、無理矢理肥育したものとも違う。
 個人的な好みの範疇ではあるが、人肉に関しては太らせればいいというものではないと思っている。確かに太らせればその分肉は多く取れるが、いささか以上に味がまとまらなくなる。元々は大衆食堂で働いていた私が、その職を辞することになったのも、そういった世間の風潮との乖離に耐えられなくなったためだ。
 道に迷っているところを、旦那様に拾われたのは本当に運がよかった。
 つらつらとそんなことを考えながら作業を進め、『お嬢様』の全身の皮を剥ぎ終わった。
 シミ一つ無い美しく白い人皮だ。場合によってはこれだけでも十二分に価値が生まれるだろう。いまの時代、人皮を用いた調度品も多く出回っている。お嬢様の身体はあくまで食用であって調度品用ではないが、その筋の売人にも高く買ってもらえるだろう。
 こんな一級品の食材を毎日のように扱わせてもらえるのだから、本当に恵まれた職場環境である。
「お嬢様、それでは最後です」
 全身の皮を剥がれる激痛に意識があるかどうかも定かではない『お嬢様』に声をかけ、その首筋に新薬の注射を行う。今度は腕だけではなく、全身を固めなければならないため、何本か続けて、複数箇所に注入する必要があった。
 そうして投薬してすぐ、全頭マスクの頭頂部にある金具にフックを繋ぎ、ウインチを用いて『お嬢様』の身体を天井からつり下げる。剥がし液の水槽を撤去してもらい、今度はその下にアルミ製の大きなトレイを用意して貰った。
 吊された『お嬢様』は少しの間、うめき声を零していたが、やがてそれも聞こえなくなり、静かになる。硬化薬が脳に至る全身を固めてしまったのだ。
 このまま放っておけばいずれ硬化は解けるが、すでに死んだも同然である。手早く処理を進めなければならない。
 処理を開始しようとしたところで、部屋の扉が開き、お嬢様が姿を現した。

お嬢様は『剥かれる』のがお好き 5

 清楚なドレスに身を包んだお嬢様がこの場所に来たことに、私は慌てる。
「いけませんお嬢様! 換気はしておりますが、薬品の成分がいまだ漂っているかも……」 このお嬢様は食用のコピー体ではなく、オリジナルのお嬢様だ。
 もしこのオリジナルのお嬢様にもしものことがあっては大変だった。
 私の心配を余所に、お嬢様は朗らかに微笑む。
「大丈夫です。あの薬品は直接触れでもしない限り、あの効果を表すことはありません。もしそうだとしたら、貴方もただでは済んでいないでしょう?」
 それは、確かにそうなのだが。
 そんな気化したレベルのもので硬化があるのであれば防護服だけでなく、ガスマスクも必要になっていた。それをしないでいるのだから、問題はないはずなのだが万が一がある。
「こちらのお嬢様はすぐに調理させていただき、そちらにお持ちいたしますので……どうか隣室でお待ちください」
「……そうですね。無闇に心配させてしまうのはかえってよくありませんでした。信号が途切れたので、一言労いを……と思ったのですが」
 その優しいお気遣いはありがたいのだが、万が一を考えると作業ができない。
 心苦しかったがお嬢様には隣室にお帰りいただいた。
 それにしてもいつものことではあるが、たったいまここで死んだ『お嬢様』の感覚を追体験していたとは思えない落ち着きようだった。
 私は吊された『お嬢様』のうなじ辺りを探り、小さなマイクロチップを取り出す。これは『お嬢様』の感覚などを外部に送信するためのチップで、お嬢様はその信号を隣室で受け取っていたはずだった。コピー体の『お嬢様』が感じた感覚をそっくりそのまま感じていたはずで、それは死に至る苦痛をそのまま受けていたということになる。
 非合法な組織が行う拷問には、そうやって死にゆくものの記憶を味合わせるものがあるというくらいにはその感覚は鮮明なもので、どれほど鍛えられた人間でも、健常な感性を持つ人間なら、死ぬ感覚を何度も味合わされていると確実に発狂すると言われている。
 そういう意味では、もう何十、何百回と死ぬ経験を繰り返していながらも、穏やかな心根を保っているお嬢様はとんでもない方だった。
「お嬢様をお待たせするわけにはいかないな」
 私はそう気合いを入れ直し、『お嬢様』の解体を進めた。硬化した足の先から、肉を骨と分離しつつ、身体を崩していく。あっというまにステンレスのトレイが『お嬢様』の崩れた肉で一杯になった。
 骨から肉が綺麗に剥がれたため、まるで現実味のない、作り物のような白い骨が並べられる。このまま人骨標本にすることもできそうだ。
 手早く身体全体の解体を行い、首から上を残して肉と骨に分割してしまう。
 さらに木槌を使って肉を細かく粉砕して、元に戻った時にミンチ肉になるようにしておく。これで下準備はほぼ完了だ。
「あとは頭部か……どう調理するかな」
 吊された頭部を取り外し、全頭マスクを脱がす。
 傷一つ無い穏やかな『お嬢様』の頭部がそこにあった。食人において頭部は調理難易度の高い部位となる。
 いや、ただ食べるだけなら、脳みそや目玉、耳たぶなど好まれる上に食べやすい部位が多いのだが、うちのお嬢様のように『余すことなく食べる』を目的とすると途端に難易度が跳ね上がるのだ。
 今回の主役はあくまで剥いだ皮の方であり、そちらの調理の方が重要ではあるが、頭部をいつもの調理方法でごまかすことはしたくない。

 今日も私はお嬢様を美味しく食べる方法を模索し続けるのである。

おわり
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