「く、くるし……っ、なか……圧迫……っ」
どうやら、まりかさんの身体が戻る過程で、中にいる双子ちゃんを圧縮してしまっているようだ。いままで空洞だった場所に肉が生じていくわけで、そうなっても不思議じゃない。
ランナーとなっていた部分のまりかさんの肉体が液体状に解け、まりかさんを纏ったかすみちゃんの足を這いあがり、元に戻っていく。
そのままどうなるか見守っていると。
「ぐぎゅ、っ」
不穏な声と音と共に、まりかさんプラモの関節の隙間から血が噴き出した。再生するまりかさんの肉体に圧縮されたかすみちゃんの身体が潰れ、破裂したみたいだ。
ナノマシンの再生しようとする力はこんなに強かったのかと感心する。全身余すことなく潰されるというのはどういう感覚なのだろうか。プレス機みたいに上下や左右だけの圧縮ではないのだから、相当レアな感覚であることには違いないだろう。
無事再生を果たしたまりかさんの身体は、プラモデルの状態の時にあった関節の隙間や、のっぺりとした表情も消え、小人サイズの人間の姿になる。
(……ん? なんだか、ちょっと全体的に浮腫んでるような?)
考えてみれば当たり前のことなのだけど、まりかさんの中にはかすみちゃんがいた。そのかすみちゃんは元に戻るまりかさんの身体に押し潰されて、少しだけ血が外に飛び出したけど、大部分の肉体はまりかさんの中に残ったままだった。
つまり、まりかさんは体の内側に人一人分の質量を抱え込んでいるわけだ。
プラモデルから人形に戻ったまりかさんは、一瞬、僕のことを認識したように視線を動かし――その眼球が内側から盛り上がり、爆散した。
頭部、胴体、四肢。
すべてが一瞬ではじけ飛んだ。
「うわぉ」
その突然の爆発には、グロい光景に慣れている僕でもさすがにビビった。
その昔、自爆テロという爆弾を抱え込んで破裂させるという犯罪行為があったそうだけど、それでもこうはならないだろうという肉体の爆散ぶりだった。
「水槽の中に入れて置いて良かった……」
加えて、丈夫な水槽で良かったというべきだろうか。
かすみちゃんとまりかさんを入れた水槽は、飛び散った血と肉片によって赤く塗りつぶされ、中の様子がみえなくなっているほどだった。
ガラスには脳漿の欠片や、潰れた眼球まで貼りついている。
そんな姉妹が悲惨に爆散する光景を見ていたみすずちゃんが、羨ましそうにしていた。
「まりか姉さんに圧縮されて潰されるのも、かすみに体の内側から爆散させられるのも……どっちも経験してみたかったです」
「うーん。型がないからなぁ……帰ったらまりかさんのご両親にやってもらったら?」
「そうですね。楽しみです。……水無さんの力で再現できませんか?」
物作りに特化した僕の力なら、確かに出来るかもしれないけど。
「さすがにランナーの型は作れないかなぁ……設計図があれば話は別かもしれないけどね」
「なるほど……」
みすずちゃんが何か考え始めていたので、僕はそれを邪魔しないように、まりかさんとかすみちゃんの後処理を行うことにした。
まりかさんは固定薬でしばらく死に続けていた上に、再生して早々また死んだ。
ひょっとすると再生するのに必要なエネルギーが足りていないかも知れない。
僕は冷蔵庫からエナジーボールを取って来て、まりかさんとふたごちゃんの片割れが弾けた水槽の中に、それを放り込むのだった。
つづく